新薬が世に出るまでの流れ
①基礎研究
病気の治療に使われる薬は、次々と新しいものが出てくるような印象がありますが、実際には製薬会社が新薬を開発するのは途方もない時間と資金を費やしています。しかも、どれだけ頑張って開発しても日の目を見ないものだってあるのですから、その労力は並大抵のものではありません。
おおよその確率ですが、新薬開発が成功するのは3分の1とされています。つまり残りの3分の2は徒労に終わってしまうのです。
では、実際にどのような流れで新薬開発が行われているのかを、わかりやすくまとめてみましょう。まずは、薬として形にするためには何も無いところから始めるわけにはいきません。ですから、薬にとって重要な存在である有効成分を見つけたり、つくりだす事から始めることになります。
これを基礎研究と言って有効成分を植物や微生物の中から見つけることもありますし、化学的に合成することもあります。製薬会社では、化学的に合成した化合物についてデータベースを持っており、そこに保管された化合物の中からつくりたい薬の効果が出るものを探し出して安全性や薬として加工する事ができるかといったことを調べていきます。
これだけでかなりのコストを費やすことになるので、期間を短縮するために、現在はスーパーコンピューターを使ってシミュレーションをすることが始まろうとしています。
②非臨床試験→臨床試験→病院長の許可を得る
安全性などを調べていくのは、いきなり人間を使うことはありません。最初は人間や培養された細胞に、調べたい成分を投与してどのような反応があるのかを調べていきます。これは非臨床試験というのですが、一般的には動物実験として知られています。
非臨床試験でよく使われるのはマウスやうさぎ、さるなどです。この実験を通じては効果があるのかを調べるだけでなく、人間に対してどのように投与して量はどのくらいにすればよいのかを考えていきます。ただ、動物を事件材料とすることに対して、道義的に残酷であるという意見も昔からあり、製薬会社との対立が生じています。
非臨床試験で結果が得られたならば、次はいよいよ人間に対しての効果を確認する臨床試験へと移ります。臨床試験は治験と呼ばれて実施するときには厚生労働省の定めたルールに従って行われなければいけません。
まず治験をおこなう環境を整える事が必要です。施設には治験の経過を見守る専門の医師や薬剤師、看護師が揃っている必要があります。
さらに製薬会社が独断で治験を行なうことはできず、どのような試験を行うのかという内容を試験を行う病院の治験審査委員会の審査で審議して、病院長の許可を得なければいけないのです。
病院の治験審査委員会といっても、その病院の医師が委員になっているのではなく、全く関係のない外部の人間が委員になります。というのも、治験で大事なのは、被験者が命を落としかねない実験の材料とされることがないようすることなので、人権と安全性を守れるかが話し合われます。
被験者に対しては、治験がなんのために行われるのかをリスクも含めて医師が説明して、納得した上で同意を得なければいけません。決して強制的に治験に参加させることは認められないのです。
③安全性を調べる→投与量・投与方法を調べる→既存薬との比較
これらの条件を満たした上でようやく治験が実施されるのですが、3つのフェーズと呼ばれる段階を経ることになります。フェーズ1では少人数の健康な人を対象に治験を行い、副作用がないか安全性に問題はないかを調べていきます。
次にフェーズ2では少人数の患者に対して治験を行い、有効で安全な投与量や投与方法について調べます。
フェーズ3では多数の患者に対して、有効性と安全性を確認して既存薬との比較を行っていきます。
もしも臨床試験で効果が出なかったり、深刻な副作用があると認められてしまうと、そこで開発は終了です。問題がなければ厚生労働省の承認審査にかけられます。承認審査に合格すれば一般に販売する事が可能となります。
新薬ができるには長い年月と莫大な費用がかかる
最初の有効成分を見つけるところから承認された販売されるまでには、一般的に10年から20年近い年月がかかるとされています。そして開発に必要となる費用は、数百億円は少なくともかかります。
ですが最近では新薬開発は費用が上昇している傾向があり、1000億円以上の開発費用をかけることも珍しくありません。それだけの費用をかけなければいけない状況なので、大手の製薬会社が合併をして新薬開発ができる体力をつくろうとする動きが加速しているのです。
日本における新薬開発では、もう一つ問題になっているのが海外では臨床試験が行われてから承認が降りるまでには1年から2年なのですが、日本では5年から7年くらいがかかっています。
がんなどの深刻な病気の患者には、その承認期間が短縮されれば助かるかもしれない可能性があるということで、もっと承認スピードを早くするべきだという意見が強くなっています。承認を待っている間に、海外で開発された薬が世に出回って市場を独占するケースもあるので、早く改善されるべきことです。
最終更新日 2025年7月24日